after the winter

暇人が物語を書いていきます。よろしくお願いします。

想いは大気圏を越えて

願いの重力を振り切り、想いは大気圏を越える。


この宇宙のどこかに同じ苦しみや希望を持った仲間がいることを信じて。


たくさんの推進剤を背負ったロケットは、単なる機械の集合体が背負うにしては重すぎる多くの夢を乗せる。


母なる星に別れを告げ、いつか帰ってくることを約束し、進み続ける。

 

たとえその先に、誰も待っていなかったとしても。


ただ進み続けることをやめない限り、人類がひとりで生きてゆくには広すぎるこの宇宙で孤独であることを否定し続けようとする限り、いつかどこかに。

 

そしてまた一つ、大気圏を越えて、存在すら知らない君の待つ星まで疾り続ける一筋の孤独。


孤独でないことの証明はできなくとも、誰かとわかちあおうと進み続ける限り、僕らの心は孤独からはるか遠くへ駆け抜けてゆく。

 

たとえフィクションでも、そう信じて。

【朱い僕らの母星】 『御神体の真実』前編

【朱い僕らの母星】

御神体の真実』前編

 

緑の巨躯が地面を踏みあさる音が轟く。

「にげなきゃ…!にげなきゃ…!どこに…!」

爆発音とともに何かが吹き飛ぶ風圧で少女はよろける。
瞬きした次の瞬間、その前方10mの所に変わり果てた母屋の屋根が現れていた。あまりの恐怖にへたり込む少女。

「おい!そこのチビッ!いいから早く乗れ!!」

走行する音とともに斜め後ろから、若い男の怒号が飛んで来た。
緑の巨人たちとは比べ物にはならないが、それでも少女よりはるかに存在感を持って現れた機械から身を乗り出す彼。
「あなたは…」
「いいから!早く!」
少女は立ち上がろうとする。しかし、その足は震えて動き出すことができない。
「ああっクソ!」
彼は頭の中で思う。数秒間、彼女を助けるためにMWを降りて引き揚げる。その数秒に、二人の生存確率はかかっている。もちろん助けずに一人で逃げることもできる。

『3秒間だけだ…それで決める!』
いつだって神サマなんていなかったな…団長…〇〇さん…バルジ…みんな…俺はどうしたら…彼は知っていた。本当は、結論など最初から出ていたのだ。

「いいな!とにかく頭を守れ!」
機械から飛び降りた彼は、少女を掴むと機械の上部に向かってほとんど投げるように荒々しく乗せる。
「いいから何か掴んでいろ!恐ければ目をつぶっていい!なんでもいいが、今は俺を信じろ!」

緑の巨人の一人、頭に角が生えている奴が、こちらを見据えて紅く目を光らせた。彼女はそれを見て、息を飲む。足元に温もりを感じたと気付くと、自然と失禁していた。

彼はその機体を知っていた。彼の昔の家族たちと命を奪い合った機体、ゲイレールとグレイズ一個小隊だ。

こんな辺鄙な土地にMSが出向くなんて、ただごとではないのだろう。彼はこうなった経緯を理解できないまでも、この事態の危険性をよく理解していた。

「ここを逃げる!アイツらはGHでは辺境の雑魚だが、今の俺たちは逃げるしかない!」

「逃げる…逃げないと…でも、どこへ?」
もちろん、その答えは二人とも持ち合わせていなかった。

隊長機の指示のもと、二機のグレイズが二手から回り込もうと加速する。ライフルの轟音がうなる。

「クッ…逃げ場なんて、どこにもないってやつか!チビ!コクピット掴んで、頭を守れ!どこか逃げ場か隠れ場を知らないか!?」

「えっと…!私、私、あの…」
彼女はこの丘しか、この教団しか知らない。この世界が彼女の全てだった。

その時。

《…きこえる?》

「え…え…誰?」

「どうしたチビ!なんかあるのか!」

《ぼくのこえが…きこえる?》

「誰なの!?」

《きて!ぼくが、まもるから》

「守る?君は?」

「おい何が起きてるんだ、クソ、回り込まれる!」
彼は急旋回し、間一髪巨大な斧の一振りをかわす。

「お兄ちゃん!教会に行って!」
「教会…!こんな時に敵の真ん中に突っ込んでどうするんだ!」
「聞こえるの!『守る』って!」
「誰が!俺が君を守らないと!」
「そうじゃなくて!多分…『オオマカミ様』が…」
「神サマはいない!こんな時に宗教ゴッコはごめ…」
「違う!!」
その声は、先ほどとは違う、不思議と説得力が溢れるものだった。

「どういうことだよ…ああもう!行けばいいんだろ!行ってやるよ!南無三!」

MW『ドワーフ』が、敵の隊長機目掛けて走り出す。誰がどう見ても無謀だ。

教会までは約500m。舗装されていない荒地を走るドワーフに泥が跳ねる。
「こんな時にあの地獄の訓練の成果が出るとは…最悪だ」
敵の攻撃を避けるため、でたらめに走る。もちろん、追いかけてくる相手の銃口は、細かく軌道を変えるドワーフを捉えることはなかった。それでも確実に敵機との距離は縮まっていく…。

《きてくれたんだね。ぼくを、ゆめからさまして》

「お兄ちゃん!教会の奥のお部屋!オオマカミ様の眠っているお部屋!」
「そんなことだと思ったよ!こういう時って!どっかにそういうピンチをチャンスにしてくれる何かがあるんだろ!?」

彼はこんな非常事態にドアを丁寧に開けて閉めるような男ではない。もちろん、普通の人間でもこんな時はそうだ。
ドワーフが両腕を壁にぶち込んで破る。そのまま教会へと飛び込む。
祭壇も椅子も何もかも倒れている中、止まるドワーフ

「あれを!開けるの!」

《ゆめはおわる、ぼくはそろそろおきないといけないって、ずっとまえから、しってた》

祭壇の奥、御神体が眠るとされている禁止区域、カーテンを青年が荒々しく開ける。

そこに眠っているのは、赤子を抱く聖母の像でも、十字架に貼り付けられた神の子の絵でもなかった。

《おはよう、ヒナ》

祈りを捧げるように留まっていた彼の時間が再び動き出す。

《ぼくは、テンシをかるためにうまれた》

立ち上がる巨人は、数百年前の悪魔のなりそこないだった。コクピットモニターには、当時の文字が浮かぶ。もちろん、この場にいる全員がその名を知ることはなかった。

《Valkyrja flame:Wild Evangelisti》

静かに荒ぶる、獣の宣教師の姿だった。

【朱い僕らの母星】御神体シリーズ小話

『神父様の眼鏡』

 

『この眼鏡をかければなんでも見えるのです。そして、この教典には、人が平和になるための教えがあります。いつか、あなたたちにも祝福を』

 

少年は、遺体となった神父様の眼鏡を手に取った、そのレンズは、ただのプラスチックだった。
教典の本を開いた。見たこともない絵のような文字が並んでいた。やってきた大人たちが言うには
「これは子供のいたずらだ」
とのことだった。

 

神父様の目は見えていなかったのだ。

それでも、神父様は神を信じ、平和を説き、ぼくたちが生きるためと戦っていたのだ。

 

少年は、眼鏡をかけて、経典を開く。神父様のことを思う。そして平和を思う。

いつまでもここは変わらない。それでもみんなは口にする。
『いつかあなたに祝福を』

いたいのいたいの

毎日の登校時間のため、僕は早歩きをしていた。少し時間が遅れ気味だ、急がねばならない。

学校へ向かう曲がり角で「あっ」小さな子供とぶつかった。ふくらはぎに痛みが走る。

「ごめんね、大丈夫?」そう声をかけると子供は言った。

「いたいなぁ…いたいのいたいのとんでいけ!」

次の瞬間、僕らは砂漠の中にいた。ふくらはぎをさすりながら、
「これはどうしたことだろう」と目をぱちくりさせた。

「まだいたい?わたしも!いたいのいたいのとんでいけ!」

次の瞬間、僕らは見知らぬ外国の車道に突っ立っていた。クラクションの音に驚きながら、足の痛みをまだ感じていると、

「まだいたいのかな!いたいのいたいのとんでいけ!」

次の瞬間、海の上に浮かぶ、小さな小さな島の上に二人で並んでいた。足の痛みは治まっていたので、周りを見回し、何がどうなっているのかいぶかしげに思う。

「わたしはまだいたいなぁ…いたいのいたいのとんでいけ!」

次の瞬間、少女は目の前から消えた。

暇なので

これからは書いたショートショートや物語をなんとなく公開するようにしていきたいと思います。

どうでもいい暗い話は削除してしまって、趣味としてちびちび書いていこうかなあと。

よろしくお願いします。

初めて人権を手に入れた彼。


長きにわたる「戦い」が終わり、誇らしげな顔で世界人権裁判所から出てくる。

世界中が「彼」に注目し、今やその「人物」を知らない者はいないと言っても過言では無い。

 

ドンッ!ガシャン!不意に響く破壊の音。

 

今回の事件に関する反対派の人間たちの暴動によって「彼」は殺されてしまった。

そこに残っているのはもはや「彼の遺体」ではなく「エアコン工場で働く自律型ロボットアームSN-04の残骸」であった。

平和

神様は愛を基にし平和を与えてくれる。

僕らはまだ繰り返し傷つけ傷つけられている。
 
「神様、天高いところから私たちをお護りください。
愛による平和を実現してみせます。
『世界に平和がありますように。』
少女は手を固く結び、目をつぶりつぶやきます。」
 
あれ、でも……?
強くないと他の誰かに殺されるから、
強くないと他の誰かに犯されるなら、
それより強くなるしかないんじゃないの?
 
「その頃、首から十字架を下げた男の子はオモチャのテッポウを持って突きつけて言います。
『悪者なんかやっつけてやる!』
その銃口はピカピカ電飾で光ります。」
 
ねぇ神様、僕の大切なものを守るために誰かを撃つことも愛だよね?
 
ねぇ神様、きっと僕の愛する人も喜んでくれるよね?
 
神様の言う愛による平和も悪を倒すことで生まれるよね?
 
神様は僕たちに平和のために銃を持つことを教えてくれたんだよね?
 
「女の子と男の子は平和のためにこの世界を生きていくことそれぞれ誓うのでした。」